2019.10.21

乳酸菌業界白書

第102回 殺菌乳酸菌の正体

前回、前々回と詳述した「乳酸菌信仰」の落とし子ともいえる殺菌乳酸菌が、市場を賑わせています。

10月2日から3日間、東京ビッグサイトで開催された食品開発展2019に出展した健康素材メーカーの多くが、殺菌乳酸菌を展示していました。

各ブースに赴いて説明を聞いてみましたが、なぜか本気度が伝わってきません。

どうやら現在のところ新しい素材がないので、無難なところで乳酸菌を展示した、というところでしょうか。

乳酸菌の原料は大手素材メーカーが供給してくれるので自社ブランド名を冠して販売しているが、生きた乳酸菌ではないので、簡単に商品に添加できる利便性はあるもののマーケットの反応はいま一つ、というのが本音のようです。

これはつまり、売れなくなったらいつでもやめられる、ということです。

 

殺菌乳酸菌については、20年程前からエンテロコッカスフェカリスという腸球菌を殺菌したものが商品化され販売されていました。

生きた乳酸菌ではないので様々な食品に添加できるのと、乳酸球菌は菌体が小さいので多くの菌体を集めることが可能であるため「1グラム1兆個の乳酸菌」という謳い文句が、売りとなっていました。

なお、最近では、1グラム5兆個となっているようです。

15年程前、最初にこの会社の営業マンと会った際に、製造工程で乳酸菌を培養したときの培地はどうするのか?と尋ねたところ、菌体をできるだけ多く集めるため培地は不純物として洗い流しています、という回答が返ってきました。

そのとき、これは私の考える乳酸菌ではなくて、もはや別のカテゴリーの素材であると思い至ったのです。

なにしろ、乳酸菌が代謝した大切な成分と菌体細胞壁に付着した有効物質まで、洗い流してしまうというのですから。

 

ところが最近の乳酸菌ブームでは、健康食品や一般食品に含まれる乳酸菌の菌数を以て、その商品を評価する風潮が出てまいりました。

そこで、菌数を誇ることのできる殺菌乳酸菌の出番となったのです。

今まで、生きた乳酸菌を生産していた大手メーカーも、それなりのネーミングを施して殺菌乳酸菌を上市しているわけです。

これまで「生きて腸まで届く」とか「腸の中で働いて健康に寄与する」など、生きた菌であることを売り文句にしていた企業が、その菌を殺してしまったのです。

 

商品の流れの基本は、需要と供給から成り立っています。

ハッキリ申しますと、殺菌乳酸菌に体感は期待できません。

あくまでも、ヒトの腸管壁に存在する10~40個のリンパ小節が集合した組織「パイエル板」が、摂取した乳酸球菌の大きさに反応し異物と判断して腸管免疫を活性化する、というメカニズムを基本としたエビデンスですから、お腹の調子を整えることとは異なります。

学術的根拠としても弱いのです。

消費者はそれらを敏感に感じ取ります。

健康食品と異なり、一般食品にはプラシーボ効果はありません。

広告宣伝が空回りしつつあることことは、大手企業には分かっているはずです。

 

先の食品開発展では、乳酸菌出展社に、乳酸菌を培養したときの培地が商品に含有されているか質問して回っている業者が見受けられました。

大切な成分は培地にこそ存在する、ということを理解しておられるのです。

不純物が取り除かれた後の、キラキラ光るきれいな乳酸菌球体……。

その菌体には健康効果など期待できない、それらがいくら多く存在していようが意味がない、ということを世の中も分かってきたのだなと、時代の流れを感じさせられた瞬間でした。

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