2013.08.09

私的腸内細菌論

第17回 乳酸菌との対話

乳酸菌生産物質を作り出す菌は、継代培養にて保存を行っております。継代培養操作は、菌の生育している試験管から菌を新しい培地に移し変えることで成立します。継代するたびに、作業者は菌と向き合っているのです。
試験管

概略を申しますと、生育した菌を針金の先を丸くした「白金耳」で少量取ります。そしてここが重要なところなのですが、生育菌のコロニー(菌が生育している様)の形、色、臭い、感触を観察し、私はこのときに口にこそ出しませんが、「どんな具合かな?」と菌に語りかけながら作業をすることにしています。菌はその時により「まあまあ良いです」「調子いまいちです」などと答えてくれます。


微生物の操作に携わっている方なら、この気持ちを理解して頂けるかもしれません。相手は生き物です。いつもと同じ作業をしても、反応がいつもと同じとは限らないのです。「そんな馬鹿な」と思う方もいるかもしれませんが、このような例もあります。


バイオ関係の学校で、たくさんの学生が同一の菌をシャーレで培養する実習の際、たまにシャーレに何も生えない学生さんがいるそうです。何回やりなおしても菌が全く生育せず、困ることがあるとか……。


学生と菌の相性なのか?私なら、その学生さんに「菌に話しかけてみてはいかがでしょう」とオススメします。長年の感覚ではありますが、菌も人を見ているような気がします。コミュニケーションは人と人の関係だけではないのかもしれません、人と菌にも必要なのでしょう。心遣いが重要なポイントだと私は思うのです。


しかしこのように申し上げている私も、菌と「対話」が出来るようになるには相当の年月がかかりました。第10回「運転手の私」でも書きましたが、私は正垣所長と車で移動することが多く、その際に技術的なご指導をずいぶん頂きました。その中で「菌との対話」の話が一番心に残っています。



「培養を永年重ねて行くと、菌と対話できるようになる」そして「君なら出来ると思うから、話しておくよ」という正垣所長の言葉に、若き日の私は感激したものです。あれから何十年も経ち、ようやく所長のおっしゃっている意味をかみしめる事ができるようになったと感じております。


以前、産経新聞社から乳酸菌についてインタビューを受けました。記事としては「乳酸菌は子供たち」という題名で紹介されています(2010年7月18日記事、「メディア紹介」参照)。インタビューの中で私は「培養するときには乳酸菌と対話するんです」とお話させていただきました。
実験室の試験管写真

現在、二人の娘が会社の跡継ぎとして働いております。経営は長女が、そして大事な菌の継代培養作業は、次女が担当しております。培養作業は長年私自身が行ってきましたが、自動車の運転でも高齢になるとベテランでも勘が劣ってくるもの。歳には勝てません。数年前から菌の作業を、次女に任せることにしました。



弊社の継代培養は、単菌の純粋培養と違い、チームにて共棲させた菌を扱います。バレーボールや野球やサッカーの監督と同じく、菌のバランスに注意しながら対話しなければなりません。乳酸菌生産物質の愛用者の方々の健康を考えれば、やりがいのある仕事と次女もきっと思ってくれていることでしょう。最近、お客様への継代培養の説明をさせていただいた際に、次女より「やっと菌とお話が出来るようになりました」という言葉が出て、私はホッと胸を撫で下ろしました。

私は次女が作業した試験管を1本1本見ながら、菌との挨拶をしている日々を過ごしています。

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