2017.01.13

身近雑記

第58回 光岡知足先生との対談(その2)

triangular graph光岡先生から伺った腸内フローラのお話しを続けましょう。


NHKスペシャルでも報道された、ヒトの腸内に棲みついている細菌の種類については、従来の解析手法により細菌を分離培養して、16SrRNA解析を行った結果、約400種類の細菌が同定されています。


ところが最近の遺伝子技術によるメタゲノム解析によりますと、その総数は約1,300種になります。


しかし、メタゲノムにて解析されたヒト腸内フローラに関係するものは、進行中のものを合わせても30種にも満たない数でしかありません。


理由は、解析した菌が極めて多くの細菌種で、ほとんどが難培養菌であり、現段階では培養条件の確立が困難であるということに他なりません。


つまり、多くの菌の有様(性状、性質)が確定できていないのです。


ヒトの健康に有益な菌なのか、取るに足らない菌なのか、未だ判別不能な状態のままです。


これでは、絵に描いた餅でしかありません。


腸内フローラ研究におけるメタゲノム解析は、まだ出発点に過ぎないのです。


学者の方々は、培養方法が達成できれば、腸内フローラと健康や病気の関係をより精密に解析することが可能となり、我が国の医療や食品分野の産業に計り知れない波及効果を持つと期待しておられます。


そして文科省も、科学研究費を計上して多数の研究機関で研究を開始するよう計画しており、それぞれは私も素晴らしい計画だと思っております。


しかし、これらが実現するのは、遥かに遠い未来になると思わざるを得ません。


それよりも、まさに今、直面している長寿社会における健康上の諸問題に対応するには、バイオジェニックス論に真摯に向き合う必要があるのではないでしょうか。


光岡先生はそう仰いました。


pie chart腸内細菌を分離し純粋培養して、50種類以上の項目について、その菌の性状を見極める研究をライフワークにされ、腸内細菌の7~8割を、手作業が中心となる培養法によって同定してきた光岡先生ならではのご意見でしょう。


器機にばかり頼ってしまうと、今まで長年に渡り受け継がれてきた技術が失われてしまいます。


研究者は自らの手を動かし経験を積んでいくことを忘れてはいけません、とも申されていました。


光岡先生は、ご自分が提唱されたバイオジェニックスについて次のように解説されました。


従来の腸内細菌研究では、生きた菌を重視するプロバイオティクスが前提となっています。


そうしますと、乳酸菌サプリメントの多くは、菌体成分や分泌物を濃縮したものですから、生きた菌が含まれていないため、しっかりしたエビデンスが取れているものでも、プロバイオティクスの定義に該当しなくなります。


バイオジェニックスとは、「死菌を含めた乳酸菌の菌体成分や分泌物が腸管免疫を刺激し、腸内フローラに好影響を与える食品」「免疫活性によって全身の健康にも寄与する食品」のことです。


こうした定義によって、プロバイオティクスからこぼれ落ちた、生きた菌を含まない乳酸菌サプリメントも、はじめて同じ土俵で評価できるようになりました。


学問を樹立し、研究を発展させるうえで、何よりも重要になってくるのは、「対象となるものを公平に扱う」姿勢です。


研究が進展することで新しい事実が明らかになると、それまでの仮設や定義が実情に合わなくなってきますが、それをなおざりにしたままでいると、本質が見えなくなってしまいます。


腸内フローラを改善する食品については、バイオジェニックス的な事実が、早くから明らかになっていたにも関わらず、ヨーグルトを中心とするプロバイオティクス(生きた菌)の宣伝ばかりに偏りすぎた嫌いがあります。


こうした現状をまずは見直していくべきでしょう。


バイオジェニックスの代表格である乳酸菌生産物質のエビデンスについても、メタボローム分析にて代謝物質が明らかになってきました。


私のバイオジェニックス論を裏付けるものとして、大きく評価しております。


腸内フローラに関与する腸内細菌研究において世界的な偉業を為し遂げられた先生のお言葉を聞き、長い年月、乳酸菌と向き合い、培養を繰り返し最終的には複数の乳酸菌を共棲培養することに従事してきた私にとって、まさに針路となるメッセージであると実感した次第です。

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