2018.03.01
私的腸内細菌論
第76回 腸内フローラと腸粘膜細胞のクロストーク

私考欄・第37回(2015年8月3日)でも掲載しましたが、腸内フローラでは、クオラムセンシングといって細胞間のコミュニケーションが行われることで、強固なチームが編成されております。
このチームは完全な共棲状態にあるため、上部消化器官からの栄養物によって繰り返して発酵することを持続し、ヒトの健康に有益な物質を代謝して腸粘膜細胞へと送り込んでいます。
そして、この定着した腸内フローラの代謝物質は、腸内発酵タンクのコントロールも行っており、いわば総合的消化管エコシステムが成立しているのです。
腸におけるこのシステムが正常に作動していれば、私たちは健康を維持して長寿が全うできるという訳です。
ところが、です。
このシステムの出発点は、私たちが生まれた時点の腸内細菌となるのであって、そこには母親からの遺伝的要素、出産時から離乳時の過程、生活環境、栄養状態等々の要素が複雑に絡み合い、それらに合わせ、たいへんデリケートな働きを求められます。
定着出来た腸内細菌ひとつ見ても、その菌の由来すなわちどこから来たのか? どのような性状なのか? 活性はどの程度か? 栄養物は何が最適か? これからこのヒトの体内でうまくやっていけるのか?……等それぞれの属性は様々ですが、驚かざるを得ないのは、腸内細菌100兆個の中で共存していく運命にあるという事実です。
これらの腸内細菌は物理的に見ても、大腸発酵タンク内の“つわもの(兵)”達なのです。
識者の方々は、この腸内細菌ひとつを取り上げ数多くの理論を構築し論文として書き上げますが、最終的には、ヒトの健康とその菌が共棲したチームの一員となって作り出す代謝物質が求められているのです。
ひとつひとつの菌がフレンドリーなコミュニケーションを行って、チームとなって総合力を発揮するのです。
腸内細菌はチームで働くからこそ、チカラが出せるのです。
これが共棲培養の原点であります。

国を挙げて感動することができるのも、日本人として喜べることにも、難しい理屈は要りません。
いわば、私たちの腸内フローラが喜んでいるのだと、私は思います。
遺伝子工学が発展し、多くの腸内細菌が発見されています。
でも、それを薬まで仕上げるには長い年月がかかります。
いま日本に必要なのは、「人生100年時代」に寄与できる乳酸菌生産物質なのではないでしょうか。
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