大澤教授・特別対談「食の機能性と微生物パワー」(1)「発酵」というキーワード
日本抗酸化・機能研究会理事長、日本食品・機械研究会会長、日本食品安全協会理事など多数。
日本農芸化学奨励賞受賞、日本農芸化学会賞受賞、飯島食品科学賞、
日本ベンチャー学会会長賞、日本食品科学工学会功労賞授賞。
農学博士。
発酵の研究室は人気が高く……あみだくじで選ぶことになりました
-はじめに大澤先生のご経歴について伺いたいと思います。
《大澤教授》家業は竹原(広島県)の造り酒屋でして、私の父親は四男坊で跡を継がなくていいものですから東大の農学部農学科に進んでそこで、稲の育種などを学んでおりました。
卒業後、農水省に勤務し、中国農業試験場で研究を行い、私は試験場のある姫路で生まれたんです。
それからも、香川や広島と試験場がある田舎で野山を走り回って育ちました(笑)。
-学生時代は有機化学を専攻されたそうですね。
《大澤教授》高校の頃は岡山におりましたが就職や将来のことを考えたとき、農業そのものはなかなか難しい、父とは異なる分野へ進もう、ということで「発酵」を学びたかったこともあり農芸化学科を志望いたしました。
-ご実家が酒屋さんでお酒造りをされていたのであれば、もともと発酵というものは身近でいらしたのですね。
《大澤教授》そうです。しかし、発酵の研究室は人気が高く、希望者も多かったので、あみだくじで選ぶことになりました。
そこで、発酵生産物質の有機化学的な解明もおもしろそうだということで、生物有機化学の研究室を選ぶことにしました。
それに当時、東大の田村三郎先生が、のちに文化勲章まで受けられる方ですが、ジベレリン※研究で世界的に注目を集めておられて面白そうだなということもあり、天然物有機化学への道に進みました。
※植物ホルモンの一種で、植物の成長を促進する作用がある。現在では、タネナシブドウに応用されている。田村三郎先生の研究室では、成長の早いタケノコに着目した「タケノコジベレリン」の研究が有名である。
まてよ、これは酸化じゃないのか?
-東京大学農芸化学科ご卒業後、名古屋大学の助教授をされた後1989年には、カリフォルニア大学に行かれたということなんですね。
《大澤教授》ええ、それまでは、キクやユーカリに含まれる植物ホルモンの研究を中心に行ってきましたが、食品、特に、健康長寿との関わりについて研究したいと思い、いろいろと相談しました。
その結果、カリフォルニア大学デービス校毒性学部というところで、一年間客員教授を務めることになりました。
-食品へと興味が向かわれたきっかっけは何だったのでしょうか?
《大澤教授》東大卒業後、東大で同じ研究室だった並木満夫先生に声を掛けていただき、植物性食品の研究室に入りましてそちらで食品の貯蔵学・保存学の研究の一部を託されました。
並木先生は、名古屋大学に移る前は、理化学研究所で放射線生物学の分野の研究を行ってこられました。
放射線を当てたら植物がどう変わるか?タンパク質は?糖は?……とやっているうち「まてよ、これは酸化じゃないのか?」となりまして、食品保存において酸化が問題になることに着目し酸化の研究を始めました。
脂肪の酸化、油の酸化……油の酸化物は身体に悪いばかりか癌と関係があると分かったものの、途中から身体に良い方を学びたくなり(笑)、酸化を防ぐ研究、抗酸化について学び始めました。
カリフォルニア大学で客員教授として研究をスタートしたのもその頃でした。
抗酸化をずっと研究し……「発酵」というキーワードに再び還っていきました
-カリフォニア大学では大きなプロジェクトに関わられたと伺いました。
《大澤教授》1990年、アメリカの癌研究所が中心になってデザイナーフーズ計画という「癌を食品で予防する」ことをメインテーマに掲げた共同研究が立ち上がり、これに参加いたしました。
癌を防ぐ食品の研究、これがいわゆるフィトケミカル、植物性食品の分野だったんです。
野生の、色の濃い、匂いの強い植物には、いろいろなフィトケミカルがある、ゴマや香辛料……ウコン、わさび、アントシアニン、こうした天然のものの方が良いということで、フィトケミカルによる抗酸化をずっと研究してきたのですが、その過程で「発酵」というキーワードに再び還っていくことになりました。
この度、農学博士であり愛知学院大学特任教授の大澤俊彦先生を弊社アドバイザーにお迎えいたしました。食品と健康との関わりについて、大澤先生ならではのご見識に少しでも触れることが出来れば、と思っております。有益で貴重な情報をみなさんと共有出来るよう、対談を重ねていく予定です。
大澤俊彦教授(写真・中央)
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株式会社光英科学研究所 代表取締役会長 村田公英(写真・右)
株式会社光英科学研究所 代表取締役社長 小野寺洋子(写真・左)