大澤教授・特別対談「食の機能性と微生物パワー」(2)デザイナーフーズ計画を経て

大澤俊彦 氏(愛知学院大学心身科学部・人間総合科学大学人間科学部 特任教授)

大澤俊彦教授

日本抗酸化・機能研究会理事長、日本食品・機械研究会会長、日本食品安全協会理事など多数。
日本農芸化学奨励賞受賞、日本農芸化学会賞受賞、飯島食品科学賞、
日本ベンチャー学会会長賞、日本食品科学工学会功労賞授賞。
農学博士。

大澤教授の略歴

光岡先生と、悪玉菌が作る発癌物質を世界で初めて発見

《大澤教授》御社の村田会長のお仕事に興味を持ったのも、こうした経緯※です。

そういえば、大学時代、東大の研究室が耐震改修工事を行ったことがあり、一年間、理化学研究所預かりになったことがありまして、その頃は毎日、理研のある和光市に通ったものですから、御社が和光市にあるということで非常に親近感を感じております(笑)。

大澤俊彦教授,爆笑

-ご縁でしょうか(笑)、東大の光岡知足先生と研究をされたのもその頃なんですね。

《大澤教授》はい、先生と共著の論文がいくつかあるはずです。

光岡先生とは、悪玉腸内細菌が作る発癌物質、インドール化合物を世界で初めて発見しました。遺伝子を傷つけることは明らかにできたのですが、ヒトの体内で癌の原因となるかどうかは、はっきりしませんでした。

腸内細菌といえば、それこそ光岡先生のお仕事だったのですが、今になって腸内細菌の働きというものが世界的に注目されており、アメリカでも短鎖脂肪酸を作る腸内細菌が、生活習慣病や認知症の予防に重要だという研究が注目されています。

※大澤教授がカリフォニア大学で癌を防ぐ食品の研究を進めるうち、再び「発酵」に向き合うようになっていったこと。

マクガバンレポートからデザイナーフーズ計画へ

-マクガバンレポート※では、腸内細菌にはまだ触れていなかったですね?

《大澤教授》腸内細菌の重要性は認識されていましたが、あまり詳細な研究は行われていませんでした。マクガバンレポートでは、いろいろな国の食事のパターンを比較すると、P(タンパク質)F(脂質)C(炭水化物)のPFCバランスがきれいな三角なのが日本で、日本食が理想、ただし塩分が高いことを除いて、と書いてある。

特にアメリカでは脂肪がやたら多いし、当時の日本と比べてもカロリーが非常に高く多過ぎると。

-マクガバンレポートが当時のアメリカ人の食生活を大きく変えたともいわれます。

《大澤教授》そうです、そういった意味では、ひとつの世界の指標になったのですが、腸内細菌に関する報告についてはあまり記憶にないですね。

マクガバンレポートの背景として、今でこそ常識になっていますが、脂肪やカロリーと癌との関係が疑われていた中で、当時のアメリカ人に初めてそのことで警鐘を鳴らしたといえるでしょう。

そこで、デザイナーフーズ計画の段階では、癌予防のためのフィトケミカル、つまり植物性化学物質を探ることとなり、癌は植物で予防することを目指して進められていきました。

※1977年にマクガバン上院議員が中心となって発表された有名な報告氏である。

大豆発酵のような日本の伝統産業をもう一度見つめ直すべき

-いつ頃までデザイナーフーズ計画に関わられたのでしょうか?

《大澤教授》2000年近くまで癌予防が期待できるフィトケミカルの研究を中心に行っておりました。

最初は、野生の植物には自分で自分の身体を守る力がある、ということで植物の研究をやっておりました。

熱帯で自然に落ちた種が発芽する、けれどその間に降り注ぐ太陽や高温に痛めつけられる、それならば植物が自分を守るための物質が何かあるはずだと。

たとえば、ボルネオの探検に同行し一ヶ月間滞在したり、マレーシア、フィリピンなどへも行ったりしていろんな食素材を集めてみると、抗菌作用が認められたりカビが嫌がるような成分がある。

植物には、昆虫や菌が付くのを防ぐファイトアレキシンという自己防御物質があり研究も盛んにおこなわれてきたのですが、それには抗酸化物質が多い。

これを人間様が横取りすれば(笑)ということで、人間の細胞に与えてみると良い効果がある、抗酸化もある、癌の予防にも期待出来る、そこでどんどん植物性食品の研究で新しい素材を開発しようとしてまいりした。

しかし2000年頃からは、フィトケミカルだけじゃないんじゃないか? フィトケミカルがいくら良いといっても、二次的に作ることが大事ではないか、味噌・醤油から始まってヨーグルト、チーズなどの発酵食品がそうですね。

大豆発酵、日本にはこうした伝統産業がありますので、もう一度これらを新しい技術と捉えて見つめ直すことが大事ではないか、というのが、私にとってここ15~20年の大きなテーマとなっています。

植物が持つフィトケミカルの機能性をさらに引き出すために

大澤俊彦教授,インタビュー

-今では日本でも健康食品やサプリメントなどたくさんの種類がありますが、どれもこの20年の間に起きたことだと思いますし、健康常識は、大澤先生のご研究の成果で一般生活者レベルに知られるようになったことばかりだと思います。この20年より前、マクガバンレポートよりもさらに前の時代、当社の乳酸菌生産物質を作った人間も、食べることで精一杯だった時代に、戦後の日本人をなんとか健康にしたいという思いだったようですが、原料には牛乳の代わりに大豆を発酵培地に選びました。

《大澤教授》それは先見の明がありましたね、今でこそ大豆というものは注目されていますけれど。

宇宙に一年もいると筋肉が疲労してどんどん消滅していく、だから宇宙飛行士には大豆たんぱくが必要なのでは、ということでJAXAが研究しておられたり、大豆プロテインを使った代替肉がマクドナルドでも売り出されたり……。

-日本人の体質というのは大豆で出来上がっているのではないかと思っています。

《大澤教授》そう思います。

会長の著書(『不老“腸”寿』)を拝読し、御社の乳酸菌生産物質の特徴が、複数の菌で共棲培養されたものであること、プロバイオティクスつまり菌自体でなく菌の生産物質であること、さらには発酵させる素材が大豆であること、の三点だとわかりました。

植物性由来のものを発酵させるといろんな物質に変わるんですが、特に今、私は乳酸発酵に興味を持っておりまして、たとえばレモンの皮やごま油を絞った脱脂粕を発酵させるとおもしろいんじゃないか、ウコンは発酵させると抗酸化力が強くなる、などと新しい素材開発を試しております。

こうした植物が本来持っているフィトケミカルの機能性をさらに引き出すために、御社の16種35株という素材で発酵させて作ったら……そんなことを考えます。

大澤俊彦教授,真剣

-第3回「食の機能性を解析する」に続きます-

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インタビュアーより

この度、農学博士であり愛知学院大学特任教授の大澤俊彦先生を弊社アドバイザーにお迎えいたしました。食品と健康との関わりについて、大澤先生ならではのご見識に少しでも触れることが出来れば、と思っております。有益で貴重な情報をみなさんと共有出来るよう、対談を重ねていく予定です。

大澤教授対談インタビュアー

大澤俊彦教授(写真・中央)
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株式会社光英科学研究所 代表取締役会長 村田公英(写真・右)
株式会社光英科学研究所 代表取締役社長 小野寺洋子(写真・左)

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