疾病に直接作用する「バイオジェニックス論」
乳酸菌生産物質が選ばれる「理由」1
特定の保健効果に限定されずに人体に総合的に働きかける乳酸菌生産物質。
その機能性の基盤となっているのが、腸内フローラを改善させると同時に、腸管免疫を介して疾病に直接作用する「バイオジェニックス」といわれる考え方です。
ここでは、この「バイオジェニックス」について、光岡知足先生に解説していただきます。
腸管免疫を介して疾病の予防・治療に働きかける
これまで、整腸作用を中心として一般消費者に訴求してきた乳酸菌製品。しかし、私たちが今まで乳酸菌の作用として認識してきた保健効果の多くは、乳酸菌が生成・放出した乳酸菌生産物質によるものであることは意外に知られていません。
現在、腸内環境を改善させる機能性食品は、プロバイオティクス、プレバイオティクス、バイオジェニックスの3種類に分類されています。プロバイオティクスは、乳酸菌の生菌や生菌製剤を摂取することで、腸内環境を改善させる考え方であり、オリゴ糖などのように腸内の善玉菌であるビフィズス菌のエサとなるような物質を摂取することで、腸内環境を改善しようというのがプレバイオティクスの考え方です。
しかし、腸内フローラの機能性は加齢とともに次第に低下してきます。すなわち、善玉菌のビフィズス菌自体が減ってくるのです。従って、腸自体が老化している状態に善玉菌や善玉菌のエサとなるようなものを外からいくら摂取させたところで、その多くは通過菌として体外に排出されてしまいます。それこそ、1~2リットルのヨーグルトを毎日摂取しないと、腸内環墳を改善させることはできないことになります。
そこで、腸自体のコンディションに関係なく、腸内環境を確実に改善させる方法として医療関係者が注目しているのがバイオジェニックスの考え方です。乳酸菌や植物などによって生成された生理活性物質を機能性食品の形で摂り入ることで、腸管免疫を活性させると同時に、腸内フローラを改善させる働きを持ちます。各種の免疫賦活物質やビタミン類、植物フラボノイドなどがその代表的な素材であり、乳酸菌生産物質もこのカテゴリーに該当します。
バイオジェニックスの働きが、プロバイオティクスやプレバイオティクスの働きと大きく異なるのは、後者が腸内フローラを改善させることで疾病に間接的に働きかけるのに対して、前者では腸内フローラを改善させるだけでなく、腸管免疫や生理活性作用を介して疾病に直接働きかける点にあります。従って、疾病に対して直接的・間接的の両面から効果を発揮するのがバイオジェニックスのメリットなのです。そのため、抗ストレスをはじめとする生体調節機能や、免接賦活・抗アレルギーといった生体防御機能、抗腫瘍効果、血圧降下や血糖低下作用、コレステロール低下作用に代表される疾病予防や疾病回復作用など、幅広い機能性が期待できるわけです。
図:バイオジェニックスの機能性食品としての作用機序
~光岡知足著:健康長寿のための食生活;(岩波書店)より引用・改変
図:バイオジェニックスの機能性食品としての作用機序
~光岡知足著:健康長寿のための食生活;(岩波書店)より引用・改変
高齢者や入院患者には乳酸菌生産物質を
乳酸菌の機能性は生菌自体にあるのではなく、その生成物に存在する……このような独創的な考えによって生み出されたバイオジェニックス理論は、東京大学名誉教授の光岡知足・農学博士によって日本で初めて提唱されました。光岡博士は、乳児の腸内にしか存在しないといわれていたビフィズス菌を成人の腸内にも存在することを発見、両者の性格がまったく異なることを突き止めるなど、日本における腸内細菌研究の第一人者です。
そもそも、光岡博士が腸内細菌叢の研究を行うことになったのは、大学院の指導教授であった恩師・越智勇一博士から腸内フローラに関する研究テーマを与えられたことがきっかけ。それまで誰も研究していなかった研究テーマだったことから、苦労が絶えなかった反面、やりがいのあるテーマでもあったと光岡博士は当時を振り返ります。その後、光岡博士は腸内細菌叢の研究を続けていくうちに、プロバイオティクスやプレバイオティクスの範疇に入らない機能性食品であっても、腸内環境を改善させるカテゴリーがあるのではないかと考えるようになり、これらをまとめて「バイオジェニックス」と命名しました。
このように、広い守備範囲を有するバイオジェニックス。なかでも、その代表ともいえる乳酸菌生産物質の利用が適しているのは、どのようなケースなのでしょうか?
「高齢者の方の健康維持や免疫力が低下している入院患者さんに対しては、乳酸菌生産物質のようなものを日常的に摂取することは理にかなっていると思います。特に入院患者さんの場合、院内感染や日和見感染の危険性も考えられますから、予め免疫力を高めておくことは大切でしょう」
高齢化社会が進展する現在、バイオジェニックスの活躍の場はますます広がっていくでしょう、とおっしゃる光岡博士。なかでも、乳酸菌生産物質には腸内にある善玉菌を安定させることから、腸内フローラを安定させる作用を引き出すことで、生体ホメオスタシスを維持することが出来るのではないかと語ります。
「しかし、その一方でプロパイオティクスやプレバイオティクスしか腸内環境を改善させないとの間違った健康情報が多く見られるのも事実です。乳酸菌の生菌をいくら投与したからといっても、必ずしも腸内に定着するとは限りません。バイオジェニックスには免疫賦活作用を持つ乳酸菌の菌体成分なども含まれますから、バイオジェニックスの一層の啓発と活用に期待したいですね」