乳酸菌のつくりだす物質が人体に総合的に働きかける

乳酸菌生産物質が選ばれる「理由」2
「乳酸菌が腸に良い」ということが、世間の常識となって久しいですね。しかし、ヨーグルトや乳酸菌飲料などに含まれる乳酸菌をいくら摂取しても、その多くが腸に届く前に死滅してしまったり、腸に定着できずに排泄されてしまうことから、得られる効果が意外に少ないことはあまり知られていません。


そこで近年、医学界で注目されているのが、ヒトの腸内において乳酸菌が作り出す乳酸菌生産物質。摂取することで、腸自体のコンディションに関係なく、腸内環境を改善させるだけでなく、生体に直接働きかける作用を持つといいます。ここでは、この「乳酸菌生産物質」の機能性にスポットをあてて、乳酸菌生産物質の持つ「不思議な力」を探っていきたいと思います。


articleicon業界では、知る人ぞ知る健康食品素材

乳酸菌生産物質とはその名の通り、乳酸菌やビフィズス菌に含まれている有用菌が発酵過程において産生する物質の総称です。あくまで、乳酸菌が作り出した物質であり、その性質は乳酸菌と全く異なります。


これまで、クローズマーケットを中心に展開されてきたこともあり、一般消費者にとってはあまり耳慣れない名称だと思いますが、実は健康食品業界では知る人ぞ知る素材として有名です。なぜなら、豆乳をベースとした特殊な培地に複数の乳酸菌を接種したうえで、長時間発酵させて作ることから、大豆由来の成分だけでなく、乳酸菌由来の成分などの多種・多様な成分を豊富に含んでいるからです。


事実、(財)日本食品分析センターにおいて食品レベルで分析したところ、アミノ酸や脂質、ビタミン、ミネラル、イソフラボン類や様々な生理活性物質をバランスよく含んでいることが判明しています。そして、その中にはγ-アミノ酪酸やオルニチン、脳機能に関連するフォスファチジルセリンなど、話題の成分も含んでいることが分かっています。


通常の健康食品の場合、特定の保健効果を期待するために特定の物質を配合します。しかし、乳酸菌生産物質は多種多様な成分を含むことから、特定の保健効果に限定されずに人体に総合的に働きかけます。その幅広い機能性を評して「ウルトラサプリメント」と呼ぶ医師もいるほどで、特に若い医師が専門分野以外の患者に推奨するには、幅広い機能性が期待されているため、便利なものといえるようです。


articleicon乳酸菌生産物質は「古くて新しい素材」

このように、人体に総合的に働きかける乳酸菌生産物質。そのルーツは今から90年以上も昔にさかのぼります。


大正3年、京都で故・正垣角太郎氏によって日本初のヨーグルト「エリー」が発売されたことに始まり、子息の故・正垣一義氏(以下:正垣氏)によって昭和11年に、乳酸菌8種類を共棲培養させた「ソキンL」を陸軍指定乳酸菌製剤として発売するなど、当時は生菌を中心とした研究が盛んに行われていました。しかし、正垣氏は当時、東南アジアで幅広く事業を展開していた西本院寺の22代目の法主・大谷光瑞師と出会い、中国・大連にて大谷光瑞農芸化学研究所を設立。研究テーマもそれまでの生菌から生菌の代謝産物へ180度切り替えたのです。


終戦後、正垣氏は昭和23年、東京に寿光製薬㈱を設立、今日の乳酸菌生産物質の元祖となる製品「スティルヤング」を開発した。その間、正垣氏は昭和24年と25年の2回にわたって国会で「寿命諭と有効菌」と題した講演を行い、技術的にも今日の腸内細菌学会レベルを超えた解説であったことから、当時の文部大臣や厚生大臣から賛辞も受けています。


現在、正垣氏の製法は㈱光英科学研究所をはじめとする3社が継承し、基本となる製法を引き継ぐと同時に各社改良を加え、3社は独自の製品を製造する形で今日まで至っています。


articleicon乳酸菌の共棲状態がヒトの腸内細菌を正しく反映

その一方で、乳酸菌生産物質の特徴として挙げられるのが、共棲培養という独特の培養技術です。


共棲培養とは、2種類以上の乳酸菌がグルーピングした形で、かつ、培養を繰り返してもグループ内で菌同士が勢力範囲を保ちながら、バランスよく共存する状態のことをいい、まさに人間の腸内フローラに近似したものといえます(図)。




医学の世界などでは、1種類の菌だけを育てて増やす「純粋培養」によって菌の働きを解明する方法が主流となっています。しかし、人間の腸内には1種類のみの腸内細菌が存在するわけではなく、実際には100種類・100兆個以上ともいわれる非常に多くの腸内細菌が生息しています。そして、それぞれの菌が活動することで、腸内における各種の物質の産生に深く関わっています。従って、複数の菌を同時に育てる「共棲培養」が人間の腸内コンディションを一番反映しており、生命を維持するための物質を得る最良の培養方法といえるわけです。


上記の(財)日本食品分析センターにおける分析結果は、あくまでも食品レベルでの分析結果であり、その他の生理活性物質が乳酸菌生産物質に含まれている可能性は極めて高いといえます。機能性食品の学術分野の研究者からは、乳酸菌生産物質の関与成分は「アンノウン・ファクター」のままで良いのではないか、との声も聞かれます。なぜなら、「関与成分が解明されれば、大手のメーカーに市場を完全に持っていかれてしまう」から、とのこと。「アンノウン・ファクター」に秘められた力……乳酸菌生産物質から当分、目が離せそうもありません。

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